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1-1:午後0時の戦場 (5)
「やっぱりかっこいいよね、あの人」
「一緒にいた人もイケメンだった!」
「ネオ株って社員顔で選んでんじゃない?」
「男も女も美人ばっかりだしね。ありそう!」
隣のレジの藤田さんとコソコソ盛り上がっていた宮下さんが、ふと俺を見た。
「佐藤くん」
「あ、はい?」
「やっぱり顔赤いよ、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですって。それより、次が」
「あっ、お次でお待ちの方こちらへどうぞー」
宮下さんがいつもの店員の顔に戻ってレジ打ちを再開する。
すぐにからあげ様のオーダーが入り、俺は早足にその場を離れた。
ほんのりと温かいからあげ様の蓋をテープで止めながら、思わずため息が漏れる。
我ながら、何を意識しているんだろうと思う。
神崎さんは、俺に振り返ったわけじゃない。
あの人は、誰がレジに入っていようが、最後にはいつも必ずああやって丁寧に挨拶して帰るんだーー淡い笑顔を添えて。
「ーーっ」
思い出しただけで、顔に熱が集まってくるのを感じる。
何を今更。
あの人の笑顔なんて、ここでバイトを始めて4年、何度も見てきたはずだ。
それに、なにもレジでお礼を言ってくれるのはあの人だけじゃない。
この殺伐とした世の中で、さらに日々複雑な人間関係に揉まれてるサラリーマンの中では多くはないけど、それでもこっちを優しい気持ちにしてくれる人は確かにいる。
だからあの人が特別だと思うのはおかしい。
おかしいし、ついこの間まであの人も、ただ優しい気持ちにしてくれる人のひとりだったはずだ。
それが、あんなところを見てしまったからーー…
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