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1-1:午後0時の戦場 (6)

三週間前。 俺はその日も無事に『戦場』から帰還して、ホッとひと息ついていた。 バイトの女の子たちが休憩に入り、ひとりきりになる。 しばらく客の出入りもなかったので、カウンターを離れ、おにぎりを並べ直したり少なくなっている分を補充したりしていた。 すると、店内を流れるゆったりとした音楽以外に音のなかった空間に、突然、凛とした声が混じった。 「すみません!」 「あ、はい!」 つい注意が疎かにになってしまっていたカウンターを慌てて振り返ると、そこにいたのは神崎さんだった。 時計を見ると、午後の3時を指している。 こんな時間に来るなんて珍しい。 外出先からの帰りかとも思ったけれど、特にカバンを持っている様子もない。 神崎さんは俺がカウンターの中に入ると同時に、ドンっと音がするほど乱暴に商品を置いた。 カップのバニラアイス(かなり大きめ)を。 「袋いりません」 「あ、はい。ありがとうございます。ポイントカードは……」 「ありません」 「後付けはでき……」 「大丈夫です」 「あ、はい……」 俺の質問にかぶせるようにいつもより低い声で言葉を返され、なんとなくいつもの流れを乱される。 落ち着かないままアイスのバーコードをスキャンすると、神崎さんはパンツのポケットに手を突っ込んだ。 たくさんの小銭を左手に乗せて、右手で仕分けしていく。 その端正な顔をチラリと盗み見ると、口元がへの字に曲がっていた。 えーと、これは怒っている……んだよな? でも俺が怒らせているわけではないはず、と自分に言い聞かせながら、ぴったりの金額で差し出された小銭を受け取った。 そして、アイスとスプーンをずずいと差し出す。 すると、神崎さんはその長い人差し指を伸ばした。 「それ」 「あ、はい?」 「でかいのにしてください」 「えっ」 「スプーン、でかいやつ付けてください」 「あ、は、はい、かしこまりました」 強い眼差しに促されるまま、本当ならカレーや中華丼につけるはずの大きめのスプーンをカウンターに置いた。 「ありがとう」 神崎さんはにこりともせずにそう言うと、アイスのカップを上から鷲掴みにした。 さらに反対側の手でリクエスト通りのでかいスプーンを手で掴む。 ビニールがぐしゃりと潰れる音がした。

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