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1-1:午後0時の戦場 (7)
やはり、ものすごく怒っているらしい。
それでもありがとうと言ってくれるのは、さすがと言いたくなる。
神崎さんは、相変わらず背中をピンと伸ばしたまま踵を返した。
なんとなくビクビクしながらその動きを目で追っていると、神崎さんは出口にさしかかる直前で、歩を右に進める。
え、イートインコーナー?
俺が覚えている限り、この人は一度もうちのイートインを利用したことはない。
それでも神崎さんは、今は誰もいなくなったカウンターのど真ん中の椅子に腰を下ろすと、ドンっとアイスのカップを目の前に置いた。
そして、相変わらず口をへの字に曲げたまま、じっとアイスを見つめる。
まるで、バニラアイスに個人的な恨みでもあるかのように、眉間にしわを寄せている。
こんな不機嫌な神崎さんを見るのは初めてだ。
もちろん人間なのだから、四六時中ヘラヘラしているわけではないと思う。
それでも、昼休みにここにやってくる神崎さんは、いつも穏やかな表情を浮かべていた。
ほかの客がいないのを良いことにそのまま見つめていると、神崎さんが一度大きく身震いしてから、ようやくアイスの蓋に手をかけた。
開けるのに何度か手間取ってから、しっとりと広がるバニラアイスの表面が露わになる。
心なしか、神崎さんの眉間の皺の本数が減った気がした。
なんとなくホッと安堵して、でもすぐに呼吸を止めた。
神崎さんが、白いアイスのど真ん中に、勢いよくスプーンをぶっ刺したからだ。
うわ、男らしい。
アイスをどこからどうやって食べようが、個人の自由だ。
でも俺は小心者だから、カップの端の方から溶け始めた柔らかい部分を少しずつ取るような食べ方しかできない。
神崎さんは、突き立ったスプーンをそのままぐるりと大きく一回転させ、たぶんそのスプーンに盛れるだけのアイスを限界まで盛りきり、そして。
うわ、食べた。
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