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1-1:午後0時の戦場 (8)
もちろん食べるため以外にアイスを買う目的なんかないのだけれど、それでもその光景があまりにもミスマッチで驚いてしまう。
いつだったか見た洋画のワンシーンを思い出した。
主人公の女の子が彼氏にフラれ、バケツのような大きなカップに入ったアイスを、これまたスコップのようにでかいスプーンで食べまくり、とにかくわあわあ泣きまくるというシーン。
ストーリー的にはその後、もっと良い人が現れてその子は幸せになるんだけれど……ん?
ということは、つまり、神崎さんは失恋した、ということ?
いやでもまさか、失恋したら髪を切る、というのはどこかで聞いたことがあるけれど、失恋したからアイスをどか食いします、なんてあるだろうか。
そもそも、付き合っている人がいるような気配はこれまでなかった。
ここに昼飯を買いに来る時はひとりか、そうでなければ決まって男性の同僚と一緒だった。
その整った外見を考えればきっとモテるには違いないけれど、女性に対する対応はどちらかというと慣れていないように見えていた。
でも俺が知っている神崎さんなんて所詮は週に3回、数分間偶然聞こえてくる会話を繋げた分くらいしかないのだから、俺が知らないところで恋人がいたとしても不思議ではない。
いやでも、もしかしたら両思いじゃなく片思いの相手に失恋したのかもしれない。
いやいや、それにしても仕事の途中にわざわざアイスを買い食いしに来るだろうか。
いやいやいや、そもそもにして最大の疑問は。
なぜ俺はこんなにも気にしているんだ。
俺が悶々としている間に、神崎さんはアイスを次から次へと口へ運び、もうその半分を食べきっていた。
そんなに急いで食べたら頭が……と思った側から、苦しそうに顔をしかめて額に手を当てている。
思ったとおり、頭がキーンとなったらしい。
予想通りすぎて思わず溢れそうになる笑いをこらえる。
どうしよう。
なんだか俺が抱いていた神崎さんのイメージが、頭の中でガラガラと崩れていく。
大手ゼネコンに努める会社員。
若くして課長になったエリート。
会社の人たちから慕われて、誰かとすれ違えば必ず声をかけられる人望の厚い人。
背が高くて、イケメンで、手が届きそうにない言ってしまえば高嶺の花。
そう思っていたのに、今俺の視界の中で大口開けてアイスを食べている神崎さんは、なんだか。
ーーかわいい。
大人の男相手になんだそれ、とは自分でも思ったけれど、ほかに適当な表現が思い浮かばなかったのだからしょうがない。
これでもかと顔をしかめてアイスを食べ続ける姿は、親に怒られて拗ねている子供のように見える。
ふてくされている。
失恋なのかそうじゃないのかは分からないけれど、なんだか俺は、とても嬉しかった。
この人にこんなかわいい一面があったなんて。
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