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1-2:午後2時の邂逅 (1)

その日は朝から暑かった。 カレンダー通りでいくと季節はもう秋。 そう考えると服屋に長袖が並んでいるのも、黒とオレンジばかりのハロウィングッズが売り出されるようになったのも納得できる。 でも現実はというと、まだまだ厳しい残暑に行き交う人たちはみんなしかめっ面だ。 時折吹く風の中に確かに夏のそれとは違う秋の気配は感じるけれど、ただ靴下の在庫を補充したくて外に出てきただけなのに、思いがけず体力を消耗してしまってなんとなく気が滅入ってしまう。 立ち止まって額ににじむ汗を手の甲でぬぐっていると、微かに冷たい空気が漏れてきているのに気付いた。 見上げると、『グリーンガーデンカフェ』の文字が洒落た書体で並んでいた。 確か、宮下さんから聞いたことがある。 ここのパンケーキは一枚5cmくらいの厚さがあるのにふわふわで、写真映えもするから今女子の間で話題だとか。 パンケーキはともかく、カフェというからには冷たい飲み物が何かあるはず。 とりあえず乾いた喉を潤したい思いで扉を引くと、上についていたベルがカラカラと音を立てた。 一歩足を踏み入れた途端、冷えた空気が流れてきて一気に汗が引いていく。 気持ちいい。 文明の利器に感謝しつつそのまま涼んでいると、奥にいたウェイターが俺に気付いて、足早に近付いてきた。 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」 「ひとりです」 「少々お待ちください」 軽く会釈してまた足早に戻っていくウェイターの背を目で追っていくと、ふたりがけのテーブルにいる男性客に何やら話しかけている。 そして浅く頭を下げてから、小走りで戻ってきた。 「申し訳ございません。ただ今大変混み合っておりまして、相席でもよろしいでしょうか」 「大丈夫です」 「ではこちらへお願いします」

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