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1-2:午後2時の邂逅 (4)
ふと手持ち無沙汰になりなんとなく姿勢を正すと、微かにテーブルが揺れる。
神崎さんは少しだけ視線を上げて、でもすぐにまた意識を本に戻した。
何を読んでいるんだろう。
文庫本にはカバーがかかっていてタイトルは分からないけれど、もう半分くらい読み終わっているようだ。
文字を追う神崎さんの瞳は一定のスピードで上下していて、表情はまったく変わらない。
特に楽しそうでも悲しそうでもない様子で、淡々と文字を追っている。
時折右手でクリームソーダのグラスを持ち上げ、ひと口啜ってはまた本の世界に戻る、を繰り返していた。
もしかして、仕事関係の本なんだろうか。
それにしても、神崎さんの手はなんでこんなにも綺麗なんだろう。
ゴツゴツした感じがまったくない。
指は長いし爪の形も整っている。
思わず自分の手を見ると、なんだかものすごく関節が太く見える。
爪の形も四角いし、指も特に長いわけじゃない。
なんで同じ男なのにこんなにもーー
「お待たせいたしました」
びっくりした。
早い。
全然待ってなんかいない。
再び速くなった鼓動を鎮める間もなく、できたてのクリームソーダが目の前に置かれる。
波打つメロンソーダの上で、綺麗な半球型のアイスと小さなさくらんぼが揺れた。
ウェイターに礼を言い、すぐにストローの封を切る。
そうだ。
俺は、冷たい飲み物を飲みに来たんだ。
神崎さんと出会ったのは単なる運め……じゃなくて、単なる偶然なんだ。
まずは、喉を潤そう。
そうしたら、きっとこの気持ちも落ち着くはずだ。
改めて見てみると、透き通った緑の中に浮かんでいる小さな泡が、とても綺麗だ。
残暑に降参しそうになっていた身体も、なんとなく元気を取り戻してきた。
少しだけストローでアイスをつついてから、メロンソーダを飲んだ。
うん、美味い。
ここ数年飲んでいなかったけど、このいかにも人工的という甘みはクセになる。
普段は炭酸の飲み物をゴクゴク飲むことはないけれど、今日の乾いた喉にはその刺激がとても心地よかった。
考えてみれば、男ひとりの身としては、なかなか充実した休日なんじゃないだろうか。
ほしかった靴下は買えたし、こうしておしゃれなカフェにも巡りあえたし、
神崎さんは、かっこいいし。
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