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1-2:午後2時の邂逅 (6)
ただ現実の世界はなかなかにして厳しくて、これだけ見つめていても、神崎さんは俺の視線を感じはしてくれなかった。
それどころか、淡々と本のページをめくりながら、それに合わせて啜るクリームソーダを順調に消費していっている。
たまたま相席になった目の前の男が自分と同じクリームソーダを頼んで、ただそれを飲みながら自分をジッと見つめているとなれば、少しは気にならないものだろうか。
もしかして、気付いているけれどいかにも俺が怪しいから関わらないようにしている、とか?
いや、違う。
きっと神崎さんは、見られ慣れているのだ。
この俺だって身長が高いというだけで、外を歩けばけっこういろんな人が見上げてくる。
若干女性の割合が多いけれど、それこそ、老若男女問わずだ。
確かに悪い気はしないけれど、見られるということが当たり前になると、その視線の先に何があるのか、誰がいるのか特に気にしなくなってしまう。
神崎さんも、その身長と端正な顔立ちコンボで、これまでたくさんの視線を集めてきたに違いない。
ああ、なんだか。
運命だなんだと盛り上がっていた脳内のベートーベン御一行様が、シューベルトの子守唄並に静かになっていく。
柄じゃないけど、意気消沈だ。
気づいてしまった。
やっぱり俺たちの平行線は交わったりしないのだ。
神崎さんの世界で、俺はその他大勢の中のひとりでしか、ない。
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