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1-2:午後2時の邂逅 (7)

しばらくして、テーブルが小刻みに揺れた。 神崎さんがなにやらもそもそ動いている。 いつの間にか、神崎さんのクリームソーダがなくなっている。 そして、文庫本は閉じられてテーブルに置かれていた。 視線の先斜め上の壁にかかっているアンティーク風の時計を見ると、なんとなくスマホで動画をハシゴしている間に時計の長針が一周していたらしい。 神崎さんは少し腰を上げジーンズのポケットから財布を出し、中身を確認している。 そして、テーブルに置かれていた伝票をひっくり返して一瞥すると、財布から千円札を一枚取り出した。 その皺を伸ばし伝票に重ねると右手に持ち、ゆっくりと腰を上げる。 もしかしてーー帰る? 一時間前、俺は諦めた。 この偶然の出会いを『運命』だなんだと浮かれていても、一方的ならそれは単なる『思い込み』にしかならない。 そう悟って、スマホに意識を移した。 それでも心のどこかで、ふと俺に気づいて顔を上げてくれるんじゃないか。 あれ君は確かいつもコンビニにいる……なんて言ってくれるんじゃないか。 そんな淡い期待を抱いていた。 でもやっぱり現実は、現実でしかない。 神崎さんが、隣のテーブルを避けるようにしながらゆっくりとこちらに向かってくる。 そして、俺にあの淡い笑みを向けた。 ドクンと高鳴る鼓動はもはや条件反射に近いけれど、今となっては苦々しさが一緒にこみ上げる。 思わず顔を背けると、上から柔らかい声が降ってきた。 「お先に」 そう言って踵を返したはずの神崎さんが、ピタリと足を止めた。 「……何か?」 「へっ?」 神崎さんは、俺の左側をすり抜けようとした体勢のまま、首だけで俺を振り返っている。 その瞳は、驚きに見開かれていた。 何故だかわからない俺は、ゆっくりと神崎さんの視線をたどった。 その先では……あれ。 俺の手が、神崎さんの手首を掴んでいる。 ……ん? 俺の左手が、神崎さんの左手首を掴……ぎゃあ! 「えっ、えぇっ!?や、あの、え、えーっと……」 どうしよう。 無意識だった。 ほんっとうに無意識でやってしまった。 やってしまったけれど、いったい何をやってしまったのかはよくわからない。 何かはわからないけれど、とにかく手首を掴んでしまった。 引き止めてしまった。 うわ、そういうこと?

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