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1-2:午後2時の邂逅 (8)
咄嗟に手を離すと、神崎さんは驚きでいっぱいだった瞳を、怪訝そうに細めた。
まずい。
このままじゃ、神崎さんの中の俺に対する認識がへんな方向にいってしまう。
俺の存在を認識してもらえるのは願ったり叶ったりだけど、俺のレジが空いてるのにわざわざ違うレジに並ばれたりするようになったりしたら立ち直れない。
なんとかしたい。
なんとかしなければ。
「あ、あの!」
「……はい?」
「神崎さん、ですよね?ネオ株の」
「……そうですが」
「い、いきなりすみません!あ、あの俺、佐藤です。一階のコンビニの、その、店員をやっております、佐藤って言います。以後お見知りおきを!」
すがるような思いだった。
いつもの制服じゃなくてごめんなさい。
いつもの髪型じゃなくてごめんなさい。
佐藤なんて日本一平凡な名前でごめんなさい。
特に特徴ある顔じゃなくてごめんなさい。
それでも、思い出してほしい。
あの日あの時あの場所で、レジを挟んで何度も対峙したことを。
そこに特別な思いなんてついていなくていい。
今はただ、俺がただの変な人でないことを分かってほしい。
俺はストーカーなんかじゃなくて、偶然居合わせたあなたの運命の相手なんです……じゃなくて、ああ。
だめだ。
思考が尻目つれつ……じゃない、支離滅裂だ。
でももし、ここで思い出してもらえなければアウトだと思う。
何がアウトかって、とにかく、アウトなんだ。
思いきり『誰だこいつ』と眉間に深い皺を作っていた神崎さんが、鼻息の荒さを隠せない俺をジッと見つめている。
そして。
やがて。
「……ああ!」
神崎さんの眉間から皺が消えた。
そしてそれはあっという間に引き伸ばされ、笑顔の一部になった。
「いつもお世話になっております」
「あ、はい!こ、こちらこそ!」
思い出してもらえた。
神崎さんが、俺のことを覚えていてくれた。
それだけで、頭の中がジンと熱くなる。
神崎さんの記憶の中に、確かに俺は存在していたんだ。
鼻の奥がツンと痛んだ。
視界がだんだんぼやけてくる。
嬉しい。
どうしようもなく嬉しい。
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