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1-3:午後5時のアバンチュール (2)

ーー時間あるなら、一緒に飲み直さないか? 神崎さんのその言葉に嘘や偽りはまったくなく、俺たちは一緒に飲み直すことになった。 クリームソーダを。 でもそこはやはり運命の相手になりきれない俺らしく、カフェや喫茶店を見つけて扉を押し開ける度に満員だった。 そして5軒目も玉砕したところで、ついに神崎さんが諦めた。 「なんかここまでくると何かの陰謀なんじゃないかと疑いたくなるな……」 神崎さんは打ちひしがれていたけれど、俺とクリームソーダを飲み直すためだけに頑張ってくれたのかと思うと、俺はそれだけで胸がいっぱいになっていた。 カフェを探す間に、神崎さんといろんな話をした。 とは言え、俺はなんだか今の状況に実感がなくて、神崎さんが、まだまだ暑いな、とか、エアコン考えた人にノーベル平和賞あげるべきだよな、とか話かけてくれるのを聞きながら、ただ必死に相槌を打っていただけだ。 それでも、神崎さんの言葉が俺に向けられているのが嬉しかった。 神崎さんが時折俺の名前を呼んでくれるのが嬉しかった。 神崎さんの瞳に俺が映っているのが嬉しかった。 今日はもうここで終わりになったとしても、来週またコンビニのレジ越しに会えた時には、きっと神崎さんは俺に気付いてくれる。 そして、今度はちゃんと俺だと知りながら、振り返ってあの笑顔を向けてくれるだろう。 俺はもう、それだけでーー 「佐藤くん、まだ時間大丈夫?」 「え、あ、はい、大丈夫、です、けど」 「よし、行こう」 反射的に頷いた俺に笑みを濃くして、神崎さんはくるりと方向転換した。 心に浮かんでいた恥ずかしすぎるモノローグをかぶりを振って消し去り、慌ててついていく。 それまでとは違い、神崎さんはどこか確信を持って歩を進めていた。 「あ、あの、神崎さん」 「ん?」 「なんでそんなにクリームソーダなんですか?」 なんとなく小走りになりながら尋ねると、半歩前を歩く神崎さんの横顔がどこか憮然となった。

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