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1-3:午後5時のアバンチュール (3)

「一杯目のがものすごく物足りなかったからな」 「物足りない……?」 「俺が想像してたクリームソーダは、もっとこう、でっぷりと膨らんだグラスに緑色のメロンソーダがこれでもかってくらい並々と注がれてて、バニラアイスも浮力無念ってくらいに大きめのが半分沈んでるやつを想像してたんだ。でもあそこのは、そもそもグラスがものすごく細長かった」 ちょ、ちょっと待った。 両手まで使っていったい何を力説してるんだ、この人。 「それに、さくらんぼが双子じゃなかった」 「は……?」 「昔、双子のさくらんぼの乗ったクリームソーダを飲んだことがあるんだ。それが飲みたかったけど、聞いたら『本日在庫分のさくらんぼに双子のはありません』と言われた」 え、まさか、あのウェイターに聞いたのか? 双子のさくらんぼありませんか、って? この神崎さんが? 「だから飲み直したかった」 「そ、そうですか」 「うん」 ……やばい。 この人、やばい。 やばすぎる……! うん、とか。 浮力無念とか。 双子のさくらんぼとか。 何だよそれ。 しかも聞いちゃうのかよ。 ウェイターに聞いちゃうのかよ。 俺が店員だったら、確実に悶え死んでるだろ……っ。 そもそも何回真顔でクリームソーダって言うんだよ。 あーもう、やばい。 なんなのこの人。 鼻血出そう。 「まあでも、今日はクリームソーダはもういいよ」 「そうなんですか?」 「歩き回って疲れた」 柔らかく苦笑する神崎さんは、さっきまで理想のクリームソーダ像を語っていた姿とは別人みたいだ。 いつもの神崎さんだと思うと、なんとなくホッとする。 「佐藤くんもしつこく付き合わせて悪かったな」 「え、あ、い、いや、それはっ」 「お詫びにもならないだろうけど、ゆっくりお茶でもしよう」 神崎さんはふと足を止めて、斜め上を見上げた。 俺もつられて見上げて、息を呑む。 なんだーーここ。

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