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1-3:午後5時のアバンチュール (4)

そこは、見上げると首が痛くなりそうなほどのタワーマンションだった。 微かに灰色を増し始めた空の手前にある駅ビルが近い。 何階建てだろうかと思わず数えたくなるほど、たくさんのベランダが上下左右に連なっている。 外壁は下から上へと黒から淡いブラウンへのグラデーションになっていて、高さが与える圧迫感を和らげていた。 視線を下げると、少し奥に入ったところに、焦げ茶色の重厚そうな扉がある。 その両脇には緑色の葉をつけた植物があり、扉の向こうにはガラス越しに淡い光で照らされたロビーが見えた。 ……あれだ。 ここはマンションじゃない。 都市開発計画の中心となっている駅がこんなに至近距離にあって、少なく見積もっても30階分のフロアはあるだろう建物。 これは、億ションだ。 思わず立ちすくんでいると、神崎さんが不思議そうに俺を振り返った。 「佐藤くん?」 「あ、す、すみません!」 神崎さんは、俺が近づくのを待ってからその重い扉に近付いた。 一瞬の間ののち、音も立てずにその扉が左右にスライドする。 ゆっくりと歩を進める神崎さんに続いておそるおそる扉をくぐると、すぐに左側のカウンターにいた男性が立ち上がった。 「おかえりなさいませ、神崎様」 「こんばんは」 「お荷物をお預かりしております」 物腰の柔らかいその男性は、丁寧に頭を下げた後カウンターに紙とペンをスライドさせた。 神崎さんは、つかつかと歩み寄り素早くサインする。 そして、男性から小さな箱を受け取った。 「いつもありがとうございます」 「いいえ。おやすみなさいませ」 男性はまた深々とお辞儀をし、ゆっくりと姿勢を戻して、そのまま親が子供を見守るような眼差しで俺たちを見た。 なんなんだーーここは。 フロントデスクがあって、人がいた。 え、まさか、ここってホテル? 俺まさか連れ込まれてるのかキャー……とかふざけてる場合ではない。 たぶん、ここは神崎さんのーー 「佐藤くん、こっち」 「あ、は、はい!」 突き当たりを右に曲がろうとしていた神崎さんが、俺を呼んでいる。 いつの間にか止まってしまっていた足を無理やり動かしながら、カウンターを見た。 思いがけず穏やかな瞳と目が合い、心臓が高鳴る。 俺はかろうじて軽く会釈すると、慌てて神崎さんの元へ向かった。

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