26 / 492
1-3:午後5時のアバンチュール (7)
「どうぞ」
短い一言に顔を上げると、神崎さんが玄関の扉を抑えて視線で俺を促していた。
神崎さんが取手に手を置いただけで、重い扉はいとも簡単にその侵入を許した。
マンションの入り口もそうだったけれど、いかにも部外者は入れそうにないセキュリティだったのに、神崎さんの前ではどこでもあっさりと扉が開いてしまう。
まるで、俺の心の扉も一緒に開こうとするかのように。
今ここで誘いざなわれるままに歩を進めてしまえば、もう引き返せなくなる。
この気持ちを認めざるを得なくなってしまう。
そうしたら、俺は。
それでも、俺は。
「ーーお邪魔します」
ともだちにシェアしよう!