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1-3:午後5時のアバンチュール (10)
ガラス張りのリビングから見える夕焼けは、とても綺麗だ。
神崎さんの言うとおり、きっと明日も晴れるんだろう。
リアルタイムで見られる景色としては最高だし、神崎さんの言う儚さがたまらないのも分かる。
でも俺は目の前の景色よりも、隣でまっすぐ背を伸ばして外を見つめる神崎さんから目が離せなかった。
信じられなかった。
こんな風に生きている人がいるなんて。
この人は、俺がたったの一度も見上げない日だってある空の一瞬を、こんなにも大事にしながら毎日を過ごしている。
そう思ったら、
なぜだか、涙が出そうになった。
「佐藤くん……?」
「あ、す、すみません」
「……どうした?大丈夫?」
「だ、大丈夫です。なんか、その……あまりにも、綺麗で」
感動しました、と消えそうな声でかろうじて付け加えると、神崎さんは目を見張った。
少しの間物珍しいものを見るようにじっと俺を見ていたけれど、その驚きは徐々にあの淡い笑みに変わっていった。
「佐藤くん、コーヒー飲めるか?」
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