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1-3:午後5時のアバンチュール (11)

そして、冒頭に戻るーーわけで。 結局、俺は一ミリもくつろいだりできないまま、やかんの立てる音に耳をすませてみたり、何をともでもなくきょろきょろ見回してみたり、キッチンで行ったり来たりする神崎さんを盗み見てやっぱりかっこいいなとか思ってみたり……って、違う! ……いや、違わない、か。 神崎さんはかっこいい。 でも、なんだか今日はそれだけじゃない気がする。 何がどう違うのかは、よくわからないけれど……。 神崎さんは、俺が見ていることに気がついているのかいないのか、まともなカップがないな、とか、このスプーンだとでかいかな、とか呟きながらあくせく動いていいる。 そうこうしているうちにやかんがわめき出し、トポトポと注ぐ音がしたと思ったらすぐに香ばしいかおりが漂ってきた。 「待たせててごめんな」 「あ、いえ、ほんと、おかまいなく」 神崎さんはもう一度ごめんと零してから、あの淡い笑みを俺に向けた。 いつも見てきた笑顔と何かが違う気がして、直視できずに思わず目を逸らしてしまう。 何が違うのかはやっぱりわからないけれど……。 ふと、カウンターの端にぽつんと置かれた小さな箱が目に入った。 神崎さんが入り口でコンシェルジュさんから受け取った荷物だ。 「そういえば、これ、確認しなくていいんですか?」 「ん?ああ、忘れてた」 コーヒーが滴る音と、紙が擦れる音が重なる。 何だろ、と独りごちながら箱の中身を覗いて、神崎さんがーー固まった。 「……おっ」 「神崎さん?」 「おおおおおぉぉぉ……っ!」 「ど、どうしたんですか?」 「やった!当たった!」 「へ……?」 「二ヶ月くらい前のジャプンで応募してたんだ。『スリーピース』のトフィのフィギュア!」 アーモンド型の瞳をまん丸にした神崎さんが、人差し指と親指で挟んだ何かを俺の目の前に限界まで突きつけてくる。 キッチンカウンター越しでなければ、目潰しされそうな勢いだ。 思わず顔をのけぞらせてからその小さな何かにピントを合わすと、見覚えがあった。

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