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1-3:午後5時のアバンチュール (12)
「あ、それ、確か全プレのやつですよね」
「え、全プレ……?」
「応募者全員プレゼントだからって、確か宮下さん、あ、えっと、バイトの先輩も応募してました」
「応募者全員?それはつまり、葉書出したら絶対もらえるってこと?」
「え?あ、はい」
「そう、か」
「そう、ですね」
「……」
「あ、あの、神崎さん……?」
次の瞬間、神崎さんの顔が真っ赤に染まった。
それこそ、ボッと音を立てていそうなくらいに。
「は、恥ずかしい。年甲斐もなくものすごく喜んでしまった……!」
コーヒーの良い香りがただよう中で、神崎さんががっくりと肩を落とした。
つい噴き出しそうになるのを、なんとか堪える。
やっぱり、今日の神崎さんはかっこいいだけじゃない。
なんというか、本当にかわいいなあーーって、うわ、あ、危ない!
頭を撫でてしまうところだった……!
いつの間にか伸ばしかけていた右手を、左手で無理やり引っ張って取り戻す。
どうしてしまったんだ。
頭の中の脳神経がどこかでプッツリ切れてしまったのだろうか。
ミクロサイズの宇宙人に乗っ取られて欲望のままに突き進むようにプログラムされたのでなければ納得できないレベルで、何かが暴走している。
……翻弄されているのだ。
クリームソーダに不満な神崎さんはかわいい。
夕陽に照らされていた神崎さんは美しい。
コーヒーを淹れる神崎さんはかっこいい。
勘違いしてはしゃいでしまう神崎さんはかわいい。
どれが本当の神崎さんなのか分からないから、ドキドキしてーー
「でも!」
神崎さんが急に勢いよく顔を上げた。
全身の毛穴が一気に開いたんじゃないかというくらい驚いた。
……もう。
B級のホラー映画みたいな陳腐な脅かし方はやめてほしい。
「嬉しいことは嬉しいから、飾っとくことにする」
神崎さんは、小さなトフィをカウンターにちょこんと置いた。
少し角度を動かしてから、よし真正面、と満足そうに呟く。
そしてまた俺に視線を合わせると、あの淡い笑みをーーって。
だから、もう。
ほんと、そういうの、やめて。
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