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1-3:午後5時のアバンチュール (13)

今日が俺の命日になるかもしれない。 不審死として扱われた俺は、人間の身体を切り刻みたくて医学部に進んだような怪しい医者に司法解剖されるんだ。 そして、死亡診断書にはきっとこう書かれる。 『トキメキ過剰摂取』 どこの乙女だと突っ込まれそうなそんな思考と、でもそう思わずにはいられないくらい落ち着かない心臓を、深呼吸で一喝する。 神崎さんは今度は、砂糖どこだったっけ、とか、牛乳ちょっとしかないな、とか言いながら、いろんな棚を開けたり閉じたりしていた。 ちらりと見える棚の中は、どこもほとんど何も入っていなかった。 ふよふよと漂ってくるコーヒーの香りが、だいぶ濃くなっている。 窓から見える空は、少しずつ闇色に侵食されてきていた。 神崎さんが、ふいにパチンと電気のスイッチを入れる。 急に視界に明るさが加わって思わず瞬きすると、視界の中で小さなトフィが現れたり消えたりした。 「神崎さん、『スリーピース』好きなんですか?」 「ん?ああ、第一回からずっと読んでる」 「おもしろいですか?俺、読んだことなくて」 何気ないはずの俺の言葉に、神崎さんがこれでもかと目を見開いた。 鼻の穴も少し膨らんでいる気がする。 なんだろう、妙な既知感を覚える。 ……あ、そうか。 前に宮下さんに同じ質問をしたことがあったけれど、その時の彼女もこんなリアクションだった。 さらにその後「佐藤くん、『スリーピース』読んだことないなんて人生損してるよ!」なんて怒られてーー 「『スリーピース』読んだことないなんて人生損してるぜ」 「えっ」 「って言い方は嫌いだから声に出しては言わないけど、心の中でそう思ってるくらいにはおもしろい」 うわ、すごい。 完璧なデジャヴだ。 不思議な感動を覚えつつ、やたら真剣な顔で何かを訴えてくる神崎さんを見た。 やっぱり、鼻の穴が少し膨らんでいる。 思わず小さく噴き出すと、神崎さんが微かに目を見張った。 それから、また珍しいものを見るみたいに俺を凝視してくる。 「神崎さん?」 「……なんでもない」 神崎さんは、ふいと顔を背けてようやくドリップを終えたコーヒーに意識を向ける。 その横顔は、なぜかほんのり紅色に染まっていた。

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