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1-3:午後5時のアバンチュール (20)
いや、違う。
今度は確信を持って言える。
この人は、怒ってるんじゃない。
左手で口元を撫でたり覆ったりしながら、え、とか、なんで、とか呟いている姿を見ていたら、ますます愛おしさが募った。
「神崎さん」
「え、あ、えっ?」
「好きです」
「や、やめろ」
「神崎さんが好きです」
「だからやめろって!」
神崎さんが、左腕を伸ばして俺を制する。
再び落ちる沈黙の中で、神崎さんの息遣いが大きく響く。
神崎さんは左手でもう一度顔を覆ったあと、乱暴に自分の頭をかきむしった。
「ああくそっ」
「神崎さん……?」
神崎さんが俺を睨んだ。
相変わらず瞳は潤んでいたけれど、俺の腰を引かせるくらいには眼光が鋭い。
そして、口をへの字に曲げたまま、ドシドシ絨毯を踏みしめてこっちに向かってきた。
あ、あれ?
お、おかしいな。
この行動は、もしかしなくても怒ってーー
「……佐藤くん」
「ひぇっ」
あっという間にソファに近付くと、神崎さんは顎を上げて俺を見下ろした。
ど、どうしよう。
目がすわっている。
怖い。
もともと顔が整っているだけに、怒った顔がものすごく怖い!
視界の中で、神崎さんの左手がゆっくりと持ち上がる。
恐怖のあまりスローモーションにさえ見えてくる。
ど、どうしよう。
殴られる!
「か、神崎さっ……!」
でも、神崎さんの左手が俺のほおに届くことはなく。
「えっ、あ、うわっ!?」
咄嗟に目を閉じていた俺は、ドン、と肩を押され、なす術なくただ重力に身をまかせるしかなかった。
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