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1-3:午後5時のアバンチュール (21)
ど、どどどどどどどどうしよう。
な、なんだか本当に、おかしなことになっている!
背中にはソファの柔らかい感触。
視線の先には白い天井。
ん?
よく見るとうっすらと模様がある。
なんだ、無地じゃなかったのか……とか言ってる場合じゃない。
だってその白い天井を背景にして、今、俺の目の前には神崎さんの顔がある。
「か、かかかかか神崎しゃん!?」
「……なんだそれ」
俺にのしかかりながら、神崎さんがくつくつと喉の奥で笑う。
あ、その笑い方もかっこいい。
ってだから、そんなことを言ってる場合じゃない!
「ちょ、神崎さん、どいてくださっ」
「やだ」
「は!?」
「カフェでやたら俺のこと物欲しそうに見てくるから何かと思ったら、俺のことが好きだって?」
「待っ、か、神崎さっ」
「しかもきっかけは『ありがとう』のひと言?」
「ちょっ、だから!どいてっ」
「店員に丁寧に接するのなんか当たり前だろ。粗末な対応して食べ物に毒でも入れられたらどうするんだ。それを特別に感じるとか、どこの少女漫画だよ」
「しょっ……ひぁっ」
少女漫画思考で悪かったな!
昔から姉ちゃんに本棚を占領されてきたんだ、しょうがないだろ!
なんて叫んでやりたかった言葉は、あっさりと悲鳴に変わった。
だって、手が。
神崎さんの手が、俺のシャツの中に!
「ちょ、か、神崎さーー」
息を、呑んだ。
下から見上げてくる神崎さんのふたつの瞳が、いとも簡単に俺の動きを封じ込める。
いつもの神崎さんじゃない。
熱を携えたそれは、獲物に狙いを定めた肉食動物の瞳 だ。
俺の姿をその瞳に閉じ込め、まるで狩りの絶好のチャンスを待っているかのように視線を逸らさない。
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