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1-3:午後5時のアバンチュール (22)
「な、んだよ。物欲しそうな顔してるのはどっち、だよ」
思わず零れた呟きは、震えていた。
神崎さんが口の端を上げる。
まただ。
いつもの神崎さんの笑顔じゃない。
そう気付いた瞬間、心臓がものすごい速さで全身に血液を送り始める。
心の奥の方から、よくわからない何かがせり上がってくる。
……だめだ。
囚われる。
頭の中では逃げたくてしょうがないのに。
身体はピクリとも動いてくれない。
そして、悟る。
俺はもう、この瞳から逃れられない。
唇が小刻みに振動し、喉がヒュッと鳴った。
神崎さんが、長い指で優しく俺のほおをなぞる。
そして、ゆっくりと顔を傾けた。
「か、んざきさ……んっ」
……あ、やっぱり柔らかい。
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