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1-3:午後5時のアバンチュール (25)

その直前、神崎さんは無情にも手を離した。 「はぁっ……はぁっ……?」 ああやめないでいいトコなのに! ……なんて叫びそうになった言葉をすんでのところでなんとか飲み込む。 それでも荒い息を整えるには時間が足りずに、肩が上下した。 ぼんやりと曖昧な視界の中で、神崎さんが口の端を上げる。 どこからか、またジジッと音がした。 「んっ……!」 張ちきれそうだった自身が唐突に空気にさらされ、身体が跳ねた。 乱れたままの呼吸に合わせてそれが揺れる。 神崎さんは、俺が何か言う前にまた左手で俺を包み込んだ。 「あっ……」 きゅっと力を込められて、高い声が漏れる。 続いてやってくるだろう刺激を期待して思わず目を瞑ったけれど、淡い熱はすぐに去っていってしまい戻ってこない。 うっすらと瞼を押し上げると、上目遣いの神崎さんと目が合った。 一瞥され、すぐに視線をずらされる。 と同時に勃ちきったそれに神崎さんの鼻息がかかり、ピクンと動いた。 神崎さんはそのまま身をかがめると、ゆっくりと舌を伸ばしてーーえ。 まさか。 そんな。 嘘だろ? 「ちょ、ちょっと待ったあ!」 咄嗟に上半身を起こして、神崎さんの顎を両手で押した。 めいっぱい首を逸らされて、神崎さんが恨めしそうに俺を見下ろす。 「……なんで。もしかして初めて?」 違う。 初めてじゃない。 俺だっていい年なんだ。 キスだって、セックスだってしたことがある。 男をそういう意味で好きになるのは神崎さんが初めてだけど、今までお付き合いしてきた中には積極的な女の子たちもいたし、俺も相手がやると言うなら拒んだりはしなかった。 だから行為自体は初めてじゃない。 でもーーでも。 「あっ、ちょ、ちょっと、神崎さん、頼むからやめ……っ」 「やだ」 「や、やだってなんですか!ってちょ、ほんとに、ダメだって……ぅぁっ!」 こんなにも気持ちいいのは初めてだ。 「んっ……ふぅっ……」 ねっとりとした暖かい空間に、すっかり昂ぶっていたそれが包み込まれた。 自分の口から漏れる甘い声にいたたまれなくなって、思わず両手で口を塞ぐ。 ついさっきまで激しい熱に浮かされていた身体は、咥えられただけで一気に限界を超えそうになった。 ほんの微かに残っていた理性を総動員してなんとか回避する。 でもすぐに新たな刺激を与えられて、両足が小刻みに震えた。

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