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1-3:午後5時のアバンチュール (28)

「あの、ちょっと意味が分からないんですけど……?」 「……なんで。分かれよ」 神崎さんの口が、横から見てもわかるくらいに勾配の急な『へ』を作った。 でも、俺の理解度のなさに腹を立てているわけではなさそうだ。 照れてるわけでもない。 これは。 もしかして。 「神崎さん、もしかして拗ねて……」 「ない!」 神崎さんの横顔が下から上にどんどん赤くなっていく。 唇はへだし、瞳はうるうるだし。 さっきまで飢えた獣のように俺に貪りついていた人だとは思えない。 まったく。 もう。 「……かわいいのはどっちだよ」 やりきれないものを感じながら、神崎さんに一歩近づく。 相変わらず足の裏に触れる床は柔らかい。 神崎さんは、すっかり闇に包まれた空を見つめていた。 「神崎さん」 「……なに」 「俺、たぶん今、二、三発くらいは全力で神崎さんをぶん殴っても許されるくらいの立場にあると思うんですけど」 「……」 「俺が突然キスしても神崎さんは俺を殴らなかったし、だから俺も殴ったりはしません」 「……なんだそれ」 「ただ、それにはひとつだけ条件が」 「条件?……わっ」 神崎さんを抱きしめた。 逃げようとよじる身体を、腕の中に閉じ込める。 「神崎さんが好きです。だから俺と付き合ってください」 「なっ……」 「それから、またここで一緒に夕焼けが見たいです」 「……」 「この条件をのんでもらえるなら、俺、神崎さんをぶん殴るの諦めます」 静寂が俺たちを包んだ。 いつのまにかテレビの音も聞こえない。 コーヒーの香りもすっかり消えた。 今感じるのは、神崎さんの心臓の鼓動だけ。

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