48 / 492
1-3:午後5時のアバンチュール (29)
「……ふたつ」
「えっ?」
「ひとつだけって言ったくせに、条件、ふたつになってる」
「あ、ほんとだ。すみません」
「……のむよ」
「え」
「条件、ふたつとものんでやる」
「神崎さーー」
ぐううううううぅぅぅっ。
「今の、ってもしかして……プッ」
「……笑うな」
「ご、ごめんなさい」
俺の腕の中でほおを真っ赤に染める神崎さんはやっぱりかわいい。
ちょっと尖った唇も。
きょろきょろと定まらない視線も。
行き場に迷ってうろうろする手も。
何もかもがーーかわいい。
「神崎さん」
「……なに」
「好きです」
神崎さんが、とうとう耳まで赤くする。
思わず小さく噴き出すと、濡れた瞳が俺を見上げてきた。
右手で顎を捉えると、神崎さんの視線が微かに揺れる。
でもすぐに、その瞳の真ん中に俺を映した。
「……次は」
「え?」
「次、『つい』だけでキス、したら殴るからな」
「……はい」
左手を伸ばして唇をなぞると、神崎さんがふるりと全身を震わせた。
神崎さんの長い指が、俺の唇に触れる。
どちらからともなく視線が絡み合い、俺たちは、唇を合わせた。
fin
ともだちにシェアしよう!