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閑話:午後7時のランデブー (1)

「なんでこんなに何もないんですか……」 佐藤くんが、冷蔵庫に顔を突っ込んで絶望的なため息を吐いた。 実に絶妙なタイミングで暴れまわった俺の腹の虫を気にしてくれたのと、すっかり忘れてたけどカフェで奢ったクリームソーダのお礼ってことで、それなりに料理できますから、と佐藤くんが夕飯を作ってくれることになったはいいけど、どうやらそもそも先立つものが何もなく意気を消沈させてしまったらしい。 俺は、すっかり冷えてしまったコーヒーをひと口飲んでからキッチンを振り返った。 「必要なものはちゃんとあるだろ」 「必要なものってこれですか?」 そう言って親指と人差し指でうなぎのタレをつまみ上げる佐藤くんの顔は、しかめっ面だ。 なんだその顔は。 うなぎのタレを侮るなよ? 「腹が減ってどうしようもないけど何も作りたくないし外にも出たくない時に、とりあえず米だけ炊飯器にセットして風呂入ったあと炊きたてのご飯にかけて食べると、それだけでもうこの世に思い残すことはないってくらいに美味いんだぞ」 佐藤くんがいかにも不可解だと言いたげな表情で俺を見下ろしてくる。 なんかムカつくな、この微妙な体格差。 年下のくせに……って、年下、だよな? 「そりゃ美味しいでしょうけど、栄養偏りますよ」 「野菜もちゃんと食べてるよ」 「それは知ってます」 「え?」 「お昼にいつもわかめサラダ買ってるじゃないですか」 今さら何当たり前のことを言っているのか、と視線で訴えられて、思わず顔を背けた。 ずっとあなたを見てきたんだから知ってるに決まってるだろ、と言われた気がして勝手に体温が上がる。 ……調子が狂う。 最初は純粋に何で俺を知っているのか気になっただけだったのに、気づいたら自分から押し倒して、あんなことやこんなことを……してしまった。 俺は昔から、自分はパーソナルスペースが太平洋も真っ青なくらい広い人間だと自覚していて、だから実はけっこうな人見知りだ。 社会人としてそれなりに経験を積んで、とりあえず初対面の相手にも社交的だとか、人当たりが良いと称されるくらいには自分を装えるようになった。 それでも、三人より二人だと安心するし、二人より一人ならなお落ち着けるのは今でも変わらない。

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