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閑話:午後7時のランデブー (3)
佐藤くんがひとしきりオートロックに興奮し終わるのを待ってから、並んで歩き出す。
やっぱり俺の方が肩の位置が少し低い。
「佐藤くん身長いくつ?」
「最近測ってないですけど、たぶん90くらいです」
「90、か……」
「神崎さんはどれくらいですか?」
「え?ああ、俺は、80くらい、だと思う」
嘘だ。
厳密に言うと、春の健康診断では179.8だった。
いや、小数点以下を四捨五入すれば余裕で180なんだから、嘘はついてない。
それに、きっと来月の秋の健康診断では180の大台に乗ってくるはずーー
「……佐藤くん?」
頭の上に何かポンポン当たると思ったら、佐藤くんが俺の頭を撫でていた。
「えっ?あっ、う、うわぁ!ご、ごめんなさい、つい!」
「つい?」
またか。
『つい』でキスやら頭ポンポンやらできてしまうなんて、どこまで少女漫画なんだ。
それに、大人の男が大人の男に頭を撫でられるとか、俺の立場はどうなる。
嫌でも体格差を意識させられるし、なんか……ムカつく。
この四年間ほぼ毎日昼休みにお世話になってたらしいけど、正直今日までは佐藤くんのことを個人的に気にしたことなんてなくて、それこそ名札を見たこともなかったから名前も知らなかった。
それでも今日佐藤くんが佐藤くんだと分かったのは、レジで向かい合った時に感じたそのでかさのインパクトが、少なからず記憶に残ってたからだ。
スポーツでもやってたんだろうか。
俺も小柄なわけじゃないけど、佐藤くんはなんというか、全体的にでかい。
さっき抱きしめられた時は、ほどよく筋肉のついた胸板に実は少しトキめいた。
……ああ。
やっぱり、なんかムカつくな。
「な、何ですか?」
ゆっくりと上がってくるエレベーターを待ちながら、隣にそびえ立つ佐藤くんを横目で見ると、なぜか顔を真っ赤にしている。
でかい図体でかわいい顔しやがって。
俺のことをイケメンとかどうとか言ってたけど、どう考えたって佐藤くんの方がモテると思う。
身長とかガタイとか顔立ちとかを抜きにしたとしても、佐藤くんは、醸し出してるオーラが人ったらしのそれだ。
きっとこれまでの人生、なんか憎めないタイプだとか、母性本能をくすぐるとか、そう称されてきたに違いない。
愛されて育ってきた箱入り息子ってのは、あながち間違いじゃないのかもしれない。
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