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閑話:午後7時のランデブー (5)
きっと今も、無意識に本能に従ってるだけだ。
離れようとすればするほど執拗に追いかけられて、全身を完全に壁際まで追いつめられる。
崩れ落ちそうになるのを両足を突っ張って必死に支えて、でも膝が小刻みに震えるのを抑えられない。
右手でしっかり腰を捕らえられて、左手で頭を掴まれる。
逃げられない不安と一緒に快感を与えられて、脳内が混乱してきた。
それに……当たってる。
佐藤くんの硬いやつが普通に当たってる。
まずい。
ここままだと流される!
「ちょ、ふぁっ……佐藤くん!」
「……はい?」
厚い胸板を拳でドンと叩くと、一瞬間をおいてキスの嵐が止んだ。
くそ、なんて表情 してるんだ。
誰だ、大型犬だなんて言ったのは。
俺か?
これは大型犬の瞳 なんかじゃない。
腹を空かせた肉食動物 の瞳だ。
「その……田崎さんに丸見え、だ」
「え」
「そこ……監視カメラ」
「えっ、ええっ!?」
佐藤くんが慌てて俺を解放し、ぎゃーとかうわーとか騒ぎ始める。
ほんのりと淡い熱を持ち始めていた下半身には気づかないフリをして、佐藤くんからそっと距離を取った。
エレベーターの光は、まだ8を通り過ぎたところだ。
田崎さんはプロのコンシェルジュだから、たとえ男同士でもキスくらいなら見て見ぬふりをしてくれると思う。
でもさすがに今ここであれがポロリ……なんて事態になったら、俺が恥ずかしすぎて明日には引っ越さなきゃいけなくなるところだった。
危なかった。
佐藤くんのこの『覚醒』には気をつけよう……。
でも本当にいったいなんで急にスイッチが入ったんだ?
……謎だ。
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