「佐藤くん、最近来るの早くない？9時からでしょ、シフト」 宮下さんが、向かいの壁で8時5分を示している時計に視線を送る。 「あ、え、と、ちょっと早く目が覚めて……」 「さっきの、いつもお昼にカルボナーラ買う人だよね？」 「は、はい、そう、ですけど」 「いつの間に仲良くなったの？」 「えっ……と、二週間くらい前にたまたまカフェで相席になって」 「へえ。それでご飯食べに行くまでの仲になったんだ」 「へっ？」 「さっき肉とか魚とか言ってなかった？」 「え、あ、ま、まあ」 「なに食べに行くの？」 「い、いや、あの……」 この場合、『食べに行く』じゃなくて『作りに行く』が正しい。 でもそんな風に訂正したら、質問攻めが加速するに決まっている。 「まだ、決まってないです」 俺のごまかしに、宮下さんはただ、へえ、と呟いた。