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2-1:午前8時の逢瀬 (5)

あの夜、新幹線が運んでくる寿司……をはしゃぎながら食べる神崎さんをたらふく堪能したあと、俺は神崎さんと別れた。 ほどよい満腹感と、別れ際に交わしたおやすみなさいのキスがあまりに嬉しすぎたのとで、これからに繋がる話を何もせず手を振ってしまったことに気づいたのは、すでに自宅に着いた後だった。 連絡先の交換なんて中学生でもサラッとこなしてそうな昨今なのに、LIMEすら交換しなかった。 さらに神崎さんのソファで惜しげもなく披露してしまった自分のあんな声やこんな姿やそんな言葉を思い出して、来週からどんな顔をしてレジに立ったらいいのかとか、そもそも神崎さんはこれまで通りカルボナーラを買いに来てくれるんだろうかとか、とにかく悶々とした日曜日を過ごした。 そして、気持ちのいい秋晴れになった月曜日。 例のごとく人の頭で溢れかえった戦場の端っこで、俺は引きつった笑いを浮かべていた。 神崎さんがーー来ない。 時計の針はすでに12時25分を差している。 オレンジ色の社員証をつけた人たちが俺の前に現れては去っていくというのに、あの人だけはいっこうに姿は見せない。 昼休み直前に急な会議が入ったのかもしれない。 そもそも今日は出勤していないのかもしれない。 俺に会いたくないんだろうか、とか、土曜日のことを忘れたいんだろうか、とか、次から次へと浮かんで来る嫌な予感を払拭したくて、いかにもありそうな理由を考えてみる。 でも、行き交う人たちの噂話に『神崎課長』が登場しているのが聞こえて、それも一瞬で否定されてしまった。 クリームソーダを真似したのが悪かったんだろうか。 いや、やっぱりソファでのあれ……? ま、まさか、寿司を食べた時の箸の持ち方が悪かったとか!? そもそも、土曜日のアレは勢いで深い意味はなかった……とか。 家でひとりになったらふと我に返って、男相手に何やってんだ俺、とか気づいて自己嫌悪に陥って、もうこのコンビニでは何も買わない、あの佐藤って店員の顔も見たくない、とか……ああ、ダメだ。 ネガティブ螺旋階段のぐるぐるが止まらない。 もともと少女漫画思考の俺が、こんなシチュエーションでポジティブになれるわけがないのだ。 こんな調子で積もりに積もっていた俺の悶々だけれど、案外あっさりと払拭されることになる。 12時35分、神崎さんがーー来た。

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