62 / 492
2-1:午前8時の逢瀬 (7)
……なんだったんだ。
いったい、なんだったんだ、今の。
百歩譲って照れるのは想定内だとしても、なんだあの照れ方!
お釣りを渡した時もちょっと指が当たっただけで、顔を沸騰させていた。
最後はいかにも勇気を出してますって感じで見上げてきたし、あんなの……ずるい。
俺の頭の中では、今日の神崎さんは2択だった。
ひとつ、潔く来ない。
ふたつ、何もなかったかのように来る。
それだけだ。
ものすごくかわいくやって来るなんて選択肢は、考えもしなかった。
ああああああもう!
「少女漫画はどっちだってんだよこんちくしょうっ」
思わずそんな悪態が口をついてしまう。
……だめだ。
今すぐ追いかけていって抱きしめたい。
抱きしめてキスして、耳元で囁きたい。
囁いて、あの顔をもっと真っ赤にしてみたい。
好きだ。
好きだ。
好きだあああああぁぁぁぁーー
「やっぱりあの人イケメンだね。見ると元気出る」
「でもなんか今日感じ違ったね」
「うん。あ、そういえば今日は珍しく朝も来てたよ」
「えー!いいなあ、朝からイケメン見られて」
え?
「宮下さん」
「なに?」
「神崎さ……さっきの人、朝もここ来たんですか?」
「ああ、うん。8時くらいかな?コーヒーだけ買ってったよ」
おかしい。
俺の記憶……と言う名のひたすら見つめ続けて四年間のデータを頭の中から引っ張り出して照合すると、神崎さんがこのコンビニに来るのは月水金の昼休みと、出張からの帰りと、あのアイス事変の時だけだ。
「寝起きのイケメンって最高だよね。見たかったー!」
「しかもなんかずっとレジの方気にしてたから、何回も目があったよ」
「えー!私も朝のシフト入れようかなあ」
……もしかして。
もしかして、もしかする?
……いや。
いやいやいや。
ないない。
ないないないないないない……でも。
もし、本当にそうだとしたら。
俺の自惚れじゃないとしたら。
神崎さんが俺に会うために朝来てくれたんだとしたら。
……あ、やばい。
鼻血出そう。
ともだちにシェアしよう!