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2-1:午前8時の逢瀬 (8)

暗くなるのが随分早くなった。 私服に着替え終わる頃には、外はもう濃い灰色に覆われていた。 店内はすっかり閑散としている。 もうしばらくすれば残業する人たちが軽食を求めてやってくるだろうけど、それでも昼の慌ただしさには到底及ばない。 レジには店長がひとり立っているだけだった。 「店長、俺もう上がりますけど、何かありますか?」 「いんや、別に」 「じゃ、お先に失礼します」 「おう、お疲れ~」 外に出ると、冷たい風が頬に当たる。 昼間はまだ日差しが強くて汗ばむこともあるけれど、朝晩は秋の深まりをしっかり感じるようになった。 振り返って見上げると、ビルの最上階まで煌々と明かりが灯っているのが見える。 神崎さんは何階にいるんだろう。 会いたい。 あの上目遣いでかなりのトキメキを補充してもらったというのに、ほんの数時間で足りなくなってしまう。 もう定時は過ぎているはずだけど、ネオ株の人たちは定時帰りの方が稀なくらいだし、神崎さんもきっとまだ仕事中に違いない。 終わるのを待っていればもしかしたら会えるかもしれないけれど、ビルの出入口はひとつじゃないから入れ違う可能性が高いし、そもそも約束もしてないのに待ってたりするのって、重い……気がする。 やっぱりLIMEくらい聞いておけばよかったと後悔しつつ、地下鉄方面に足を向けた。 それにしても、昼の神崎さんはかわいかった。 あんな表情(かお)をさせてるのが自分なのかと思うと、頭の中とか心の中とか下半身のあたりとかがさらに刺激されて、いろいろやばかった。 何度前屈みになってやり過ごしたことか……。 神崎さんは、今日少しでも俺のことを考えてくれただろうか。 神崎さん。 神崎さん。 神崎さーー 「佐藤くん!」 ……ああ、恋い焦がれすぎて幻聴まで聞こえてきた。 まるで後ろからちょっと怒った声で俺を呼んでいるようなーーあれ? 「神崎さん……?」 横断歩道のひとつ目の白に足をかけたまま振り返ると、スーツ姿の神崎さんが小走りでこっちに向かってきていた。 その輪郭は揺らぐことなくしっかりしている。 どうやら俺の幻覚ではないらしい。 「お疲れ」 「お、お疲れ様です」 神崎さんは、爽やかにポンとひとつ俺の背中を叩いて俺の隣に並んだ。 そして、ネクタイを緩めて一気に抜き取ると、目を細めて俺を見上げてくる。

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