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2-2:午後8時のさざ波 (1)

ああああああああ……思い出しただけで鼻血が出そうだ。 眉間を指で解しながら視線をずらすと、神崎さんが、魚売り場の水槽を悠々と泳ぐ3匹の鯛をキラキラ輝く瞳で見つめていた。 きっとまた「ひたすら捌かれるのを待つだけの人生なのにこんなに真っ赤で綺麗なんて鯛はすごい」とか意味のわからないことを考えているんだろう。 スーパーでの神崎さんは、テンションが高い。 初めて一緒に来た日は、まさかこの人今までスーパーに来たことがないんじゃないのか、と疑うくらいはしゃいでいた。 親子丼の材料と必要な調味料だけを買うはずが、気が付いたら、浅漬けの素や、りんごや、りんごの皮むき器までがカゴに入っていた。 そして俺が親子丼を作っている間に、りんごを皮むき器にぶっ刺してくるくる回して「これ発明した人すごい」と大絶賛していた。 さらに次の日には、冷蔵庫の中で立派なきゅうりの浅漬けが出来上がっていたから、神崎さんが有言実行タイプであることは間違いない。 「佐藤くん、今日はどれ?」 神崎さんが小さく手招きする。 「特に決めてなかったですけど、神崎さん食べたい魚ありますか?」 「先週作ってくれた平べったいやつ」 「カレイの煮付け?」 「たぶんそれ。美味かったからまた食べたい」 「いいですよ」 ずらりと並んだ魚のトレーをひとつひとつ見ていくが、カレイが見当たらない。 「ダメだ。今日はカレイないみたいですね」 「……ふぅん」 「あ、ブリがある」 「ブリ?」 「養殖だけど身がしっかりしてるし、唐揚げにして餡かけにしてみましょうか。甘酢にしたらさっぱりすると思います」 「うん、それがいい。すごく複雑で美味そうだ」 神崎さんは満足そうに頷いて、3切のパックをカゴに入れた。

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