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2-2:午後8時のさざ波 (6)

「うっ……あ、はぁっ……」 キッチンのカウンターが腰に当たって冷たい。 それとは裏腹に、神崎さんの舌が俺を包み込み、ねっとりとした温かさで刺激してくる。 その繊細な左手が無防備な袋をやんわりと揉みしだき、俺の膝をがくがくさせる。 「あっ……っく……」 視界の端に夜空に輝く星が見える。 この家にはカーテンがない。 もちろんこの高度なら、最上階の人がうっかりベランダに落ちてくるか、遠くのビルからスナイパーがライフルのスコープを通して狙ってるかでもしない限り、誰かに見られる心配はない。 それでも、西の空でその存在を主張する月が。 月が、見ている。 「あっあっぁっ……ぁっあ」 俺の足元で膝立ちになっている神崎さんの頭が前後に動く。 口元を覆って溢れる声を殺してしまいたいのに、両手は崩れ落ちそうになる身体を支えるのに精一杯だ。 微かな水音が静かな空間の中にやたら大きく響いて、ますます俺の鼓動が速くなる。 ぞくぞくとせり上がってくる何かが、俺に限界が近いことを知らせていた。 「も、もう、やめ……っく、ぅ」 やめて、なんて言葉に神崎さんが頷くはずもなく、舌の動きがいっそう巧みになる。 わざと音を立てるかのように入れたり出したりを繰り返し、そうかと思えば気まぐれに先端を吸われる。 頭の中がもやのかかったように曖昧になっていく。 無意識に腰が揺れる。 やめて。 もっと。 はやく。 いろんな思考が乱雑に入り乱れて、やがてそれはたったひとつになっていく。 もうーーイク。 「か、神崎さっ……もっ……んぁ……」 「いいよ」 「あっ……あぁ……」 「……イッて」 「くっ……あっ……あ、んぅぅっ!」 俺は全身を震わせながら欲望を吐き出した。

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