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2-2:午後8時のさざ波 (10)

その濡れた瞳が俺の姿を捉えた瞬間、俺の中で何かが弾けた。 「うわっ、なにっ……ん、ふぅ」 倒れ込んできた神崎さんを受け止めて、その唇を自分の唇で塞ぐ。 逃げようとよじる上半身を腕の中に閉じ込めると、神崎さんの手から玉ねぎが落ちて床を転がった。 「はっ、ぁ……んっ、んん」 閉じかけた唇を舌でこじ開け、神崎さんの舌に絡める。 一度躊躇うように離れて、でもすぐに俺を追いかけてきた。 優しく歯で挟むと、神崎さんの身体が小刻みに震える。 俺の胸板を押し返そうとしていた手が、ゆっくりと背中に回される。 神崎さんの口の端から、混ざり合った唾液がトロリと溢れた。 「ん、ふっ……ぁ、っは」 俺のシャツを掴む神崎さんの手にぎゅっと力がこもった。 縋るように身を預けてくる重みに愛おしさが募る。 好きだ。 この人が好きだ。 コンビニで見せる淡い笑みも。 朝の眠そうな瞳も。 子供のようにはしゃぐ声も。 狩人(ハンター)のように俺に貪りつく姿も。 すべてが好きだ。 この人に触れたい。 この人のすべてを手に入れたい。 「んっ……」 シャツの中にそっと右手を忍ばせると、神崎さんの身体が揺れる。 冷えた指先に、温かな体温が気持ちいい。 その熱を辿るようにゆっくりと手を動かしたーー瞬間、神崎さんの膝が、がくん、と崩れた。 「えっ、か、神崎さん!?」 「はっ、はぁっ……はぁっ……」 「だ、大丈夫ですか?」 「はぁっ……こんのっ、息継ぎ、くらいさせろっ」 「あ、す、すみません、つい」 「はぁっ……つい?……つい!?」 神崎さんが、へたりこんだまま俺を見上げてくる。 全身を震わせるほど怒っているのに、瞳がうるうるしていたり、頬がかっかしていたり、股間がもっこりしていたりするから、正面から見ているのが辛くて思わず目を逸らした。 「や、だって、神崎さんが泣くから……」 「泣いたんじゃない!玉ねぎがしみたんだよ!」 「ご、ごめんなさい!」 「はぁっ……酸素足りなくて死ぬかと思ーー」 ぐうううううぅぅぅぅ……っ。 「……笑ったらぶん殴る」 「わ、笑ってませっ……プッ」 「笑うな!」 ……ああ、もう。 なんでこの人は。 この人は……こんなにも。 「ごめんなさい、神崎さん。ブリ、揚げましょうか」 「……うん」 神崎さんは真っ赤な顔で頷いた。

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