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2-2:午後8時のさざ波 (12)

サッと手を引っ込めると、神崎さんが上半身を起こして食事を再開する。 そして、味噌汁をひと口すするとほうっと息を吐いた。 「くそ……これも美味い」 「プッ、ありがとうございます」 「……佐藤くんなんでこんなに料理できるの?」 「俺兄弟の末っ子なんで、昔から兄貴達から手伝いとか押し付けられてて……それで自然と覚えた感じですかね」 「ふぅん、末っ子……あ」 「神崎さん?」 「佐藤くん、あれ!」 「えっ!?」 突然の剣幕に驚いて左斜め後ろを振り返って、でも何も……ない? 少し視線をずらしても、相変わらず夜空に輝く丸い月が見えているだけだ。 心臓がものすごい速さで動いている。 なんだ? あれって何だったんだ? ゆっくりと首を戻すと、神崎さんが味噌汁をすすっている。 不自然なくらい涼しい顔で……って、まさか。 「……神崎さん」 「苦手だって知ってて入れる佐藤くんが悪い」 「子供じゃないんですから」 「ひとつ食べたんだからいいだろ?残りはやる」 「もう……」 しょうがないなと呟きながら、俺は、餡の中にわざとらしく積まれた椎茸の薄切り5枚を、一気にほおばった。

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