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2-2:午後8時のさざ波 (15)
「信頼できる人だし、昔あの野郎の上司だったからあいつの唯一勝てない相手なんだ。すぐに人事から公式の厳重注意って形で話してくれたらしい」
「それなら、もう安心ですね」
「だといいけどな」
フンっと鼻から息を吐く神崎さんは、いつもより粗雑な印象だ。
それだけ本気で怒ってるってことなんだろう。
「神崎さんの立場は大丈夫なんですか?」
「立場?」
「あ、いや、その、相手にとっては告げ口みたいなものでしょ。嫌がらせが酷くなったりしないのかな、って……」
心配で、と続けると、目を見開かれた。
ふい、と視線を逸らされる。
横顔がほんのり桃色だ。
「あー……俺に直接何かやる度胸はないだろうけど、腹いせに新人いじめとかはやるかもな」
「えぇっ!?」
「まあでも、かわいい部下たちにそんなことしたら俺が絶対に許さない。次の日から会社になんて1ミリも足を踏み入れられなくなるくらいに、いろんな証拠集めて突きつけて追い詰めてやる」
「え、えぇっ……」
「もちろん、法に触れない範囲でな」
フフフフ……と怪しい笑いをこぼす神崎さんは、冗談なのか本気なのかわからない。
でも、神崎さんがこの若さで課長になった理由がなんとなくわかった気がする。
会社の人たちに好かれている理由も。
「でも、見られたくなかったならなんであんなとこで食べてたんですか?」
「なにが?」
「アイス食べてるとこ、うっかり会社の人に見られてたかもしれませんよ」
「あー……雨」
「雨?」
「あの日、雨降ってただろ」
「そう、でしたっけ」
正直あの時俺の視線は神崎さんと突き立ったスプーンに釘付けだったから、天気なんて全然覚えていない。
「怒りに任せてオフィス飛び出してきたら傘忘れて……でも取りに戻ったら確実にあのクソ野郎をぶん殴ってしまいそうだったし、外に出て雨に濡れるのも嫌だったから、仕方なく」
神崎さんは唇を尖らせた。
「あの時間なら誰もいないと思って……まさか店員さんに見られてるとは思わなかったけど」
「ごめんなさい」
肩をすくめると、神崎さんの唇がまた曲がった。
「じゃあ今日のも憂さ晴らしのアイスだったんですか?」
「うん、そうなるはずだったけど、今日はもういい」
「え、なんで……」
「佐藤くんのおかげですっきりしたから」
「……へ?」
への字口が綺麗な弧を描いたかと思うと唐突に、べ、と舌が出てきた。
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