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2-3:午後7時のベーゼ (6)

まさか、泣いてーー? 「か、神崎さん……?」 「俺は、佐藤くんのこと、単なる憂さ晴らしだとか道具だなんて思ってないし、思ったことも……ない」 正面から俺を見据えるアーモンド型の瞳は、乾いていた。 「もちろん、アイス代わりなんて……あるわけない」 「じゃあ、なんで……」 俺は今下半身丸出しにされてるんだ……? 「なんで、って……分かれよ」 神崎さんの唇が久し振りにへの字を描いた。 でも、わからない。 怒ってるのか、照れてるのか、拗ねてるのか、嬉しいのか……この二週間で身につけたはずの『読へ術』が完全に無効化されてしまっている。 フルフルと首を振ると、神崎さんはぎゅっと眉を寄せた。 少しだけ鼻の穴を膨らませて、少しだけ呼吸を荒くして、思いっきり瞳を潤ませて、俺にその整った顔を近付けてくる。 「ちょ、か、神崎さ……!」 「俺の舌で感じる佐藤くんが見たいから」 「……は?」 「佐藤くんが俺の手とか舌の動きに反応して気持ちよさそうにしてるのを見るだけで、幸せな気分になる」 神崎さんの長い指が、ゆっくりと俺の頬のラインをなぞる。 「最初に言っただろ。俺はお前がかわいくてたまらないんだ」 「ん……っ」 ……あ。 キスだ。 これはキスだ。 キスしてくれた。 神崎さんが、俺にキスしてくれた。 あったかい。 やわらかい。 嬉しい。 「んっ……は、ぁ」 そっと触れるだけの口付けを終えて、神崎さんの唇はゆっくりと離れていった。 「憂さ晴らしなんて、くだらない口実だ」 「口、実?」 「だってそうでも言わなきゃ、納得、できないだろ」 「何を、ですか……?」 「知り合ってたった二週間やそこらなのに、なんでこんなに……」 神崎さんが、じっと俺を見つめる。 俺の顔を見て、むき出しのまま放置されている下半身を見て、また俺を見て。 真っ赤になった。 「神崎さん……?」 「だ、だいたい!」 「は、はい!」 「俺だっていつもはそっち側っ……」 「え?こ、こっち側?って……?」 「あ、いや……なんでもない」 神崎さんは、ああくそ、と口の中で呟いて、ガシガシと髪の毛を乱した。

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