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閑話:午後9時のアイスクリーム (2)

ただふたりでアイスを食べてただけだったのに、気づいたら右手からアイスを奪い取られて、左手からはスプーンを奪い取られて、ついでに唇も奪われていた。 なんで急に? そんなこと聞いても、佐藤くんの答えは決まってる。 「ご、ごめんなさい!ついっ……」 「……はぁっ」 これだ。 またこれだ。 ーーつい。 いつもこの『つい』に俺は殺されかける。 いい加減にしろ。 そう言って突き放したいけど、尖った思考はこの温かさにいとも簡単に中和されてしまう。 身体を包む腕は力強いのに、やっと整ってきた呼吸に合わせるように背中を上下する手は優しい。 火照った頬に当たる胸板は厚くて……ああくそ。 もう怒る気が失せてきた。 それに、当たってる。 佐藤くんのが元気もりっもりになって、俺の太ももに当たってる。 あー…… 触りたい。 「甘いですね、バニラアイス」 「えっ……?」 「普段あんまり甘いもの食べないんで、久しぶりに食べると甘いなあって」 「あ、ああ、うん。そうだな、甘い……な」 ……なんだ。 どうしたんだ。 俺はいったいどうしてしまったんだ? なんでこんなにムラムラするんだ。 佐藤くんと目が合ったり、佐藤くんとどこか触れ合ったりするだけで、こんな気持ちになるなんて。 いい年して、十代の青少年も真っ青なムラムラっぷりじゃないか? しかもそのムラムラに身を任せて押し倒したりしてるし、今もものすごく押し倒したい。 押し倒して、舐め回して、気持ちよくさせて、また佐藤くんがイクところを見たい。 「神崎さん……?」 いつの間にか、佐藤くんの視線が俺の足の間で存在を主張しまくってるそれに釘付けになっていた。 「あー……生理現象、だから」 気にしないで、と言った声が震えていたかもしれない。 佐藤くんはちょっと目を見開いて、困ったように笑った。 俺をもう一度抱きしめてから、ソファに座り直す。 そして、テーブルに手を伸ばし、溶けかけのバニラアイスを手に取った。

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