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閑話:午後9時のアイスクリーム (3)
落ち着かない気持ちを隠して、俺もそれにならう。
うん、とりあえずアイスを食べて落ち着こう。
ムラムラするのも、勃つのも、突き詰めてしまえばただの生理現象だ。
人間に進化する前から備わっている本能が刺激されているだけなんだ。
だからその刺激さえ過ぎ去ってくれれば、それに比例してちゃんと治まるはず。
少し柔らかくなったアイスをスプーンですくって口に含むと、妙にホッとした。
冷えた空気が、熱に浮かれた思考を諭してくれているようだ。
やっぱりバニラアイスは最高だ。
バニラアイス万歳!
ほう……と息を吐くと、隣の空気が揺れる。
視線をずらすと、佐藤くんが楽しそうに俺を見ていた。
「神崎さんって本当に幸せそうに食べますよね」
「そうか?」
「ついてますよ」
「え、どこ……っん」
「ごちそうさまです」
……くそ。
この天然肉食男子め。
心臓の鼓動が大きくなりすぎて、飛び出してしまいそうだ。
本当にどうしたっていうんだ。
こんな掠めるだけのキスひとつで、頭の中が沸騰しそうになるなんて。
ほだされている自覚はあった。
それでも、この惨状はいくらなんでもお粗末すぎやしないか?
否定したい。
逃げ出したい。
認めたくない。
納得なんてできないし、したくない。
でも。
佐藤くんに問い詰められて、その傷ついて揺れる瞳を見せられた時に、唐突に悟った。
ああもう無理かもしれない。
だって思ってしまった。
“失いたくない”
たった二週間で、左側に穏やかな気配を感じるのが当たり前になった。
心地よかった。
楽しかった。
ハラハラもさせられたけど。
離れていってほしくない。
離さない。
離すもんか。
そうーー思った。
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