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閑話:午後9時のアイスクリーム (5)
「……テーブル」
「テーブル?」
「ここに、テーブル……と椅子、あってもいいな、って考えてた」
「ダイニングテーブルですか?」
「うん。一応ここ、3LDKのLDなんだよ。俺しばらくひとりだったし、ちゃんと食事することもあんまりなくて気にしてなかったけど、佐藤くんと二人で食べるならちゃんとしたテーブルと椅子くらいあった方がいいだろ?」
「そう、ですね」
まずい。
なんか必死になってしまった。
これじゃまるで言い訳してるみたいじゃないか。
「俺はこうやって隣同士で食べるのも好きですけど」
「えっ……?」
ソファが沈んで、綺麗な弧を描いた口元が近づいてくる。
咄嗟に左手で阻むと、ひどいなあ、とちっともそう思ってなさそうな声が笑った。
「あ、でも、確かにテーブルもいいかも」
「だろ!?」
「食事中の神崎さんを真正面から見つめられる」
「……は、ぁ?」
「俺がじーっと見つめたら、神崎さん俺のこと気になりますよね」
「え?あ、うん、まあ……」
「そしたら、俺のこと意識しながら食事する神崎さんが見られる」
「う、うん?そう、なのか?」
あれ?
なんか話が変な方向に行ってないか?
「そうですよ。そしたらもう……たまらない」
「えっ、うわっ、ちょ、待っ、佐藤くっ……ア、アイス!」
「……アイス?」
「アイスがこぼれるっ」
「えっ、あ、ご、ごめんなさい!ほとんど零しちゃいました……」
「……」
「神崎さん……?」
「佐藤くんって……」
「はい……?」
「……なんでもない」
たまに突然『雄 』って表情 になるのやめてほしい。
そんな瞳 で見られたら、
ーーその手で、俺のここ……さわって……っ。
とか言ってしまいたくなーー…だめだ。
俺はなにを考えてるんだ。
まずい。
完全にバニラアイスに酔ってきた。
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