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3-1:午後0時のノイズ (5)
「温めますか?」
相変わらず、神崎さんが自分からキスしてくれることはほとんどない。
でも俺のキスを拒むことは絶対にないし、いつもかわいすぎて困るくらいの反応を見せてくれる。
だから心の中で、かわいいかわいいたまらんたまらん……と唱えている俺はもちろんだけれど、神崎さんも勃っている。
俺は触りたい。
ズボンをこれでもかと押し上げる神崎さんのそれをものすごく触りたい。
触って握って擦って咥えて、神崎さんをアンアン言わせたい。
それなのに、俺の手が触れそうになると、決まって「ただの生理現象だから」のひと言でかわされる。
もちろん、そんなの納得なんてできるわけがない。
でも、抑揚のない冷たい声で拒絶されると、まるで見えない線を引かれてそこからは侵入禁止だと言われているようで何もできなくなる。
「ポイントカードはお持ちですか?」
神崎さんはなんで触らせてくれないんだろう。
ーーや、めろ……!
あの時、俺の手を振り払った神崎さんの左手は震えていた。
俺の超主観的かつ超希望的観測を抜きにしても、俺が原因には見えなかった。
なにかもっと根本的なレベルで拒否していたんだと思う。
それが何かはまったく分からない。
でも、聞くのがためらわれるくらいの深刻さは感じた。
もしかして……初めて、とか。
まさか、な。
「498円ちょうどお預かりします」
それにあの日以来、神崎さんは俺のアレに興味を示さなくなった。
触れようとしないし、見ようともしない。
あれだけ身体をくっつけて舌を吸い合っていれば、足に当たるその存在に気づいているだろうに。
今までの神崎さんならあっという間に俺をソファにドーン!……だったと思う。
これまでほぼ100%押し倒されてばかりだった俺としては、もちろん押し倒されるよりも押し倒したいわけだけれども。
……なんだかなあ。
おかげで俺は、妄想の中で神崎さんにあんなことやこんなことをさせては、夜な夜な報われない欲望を発散している。
やってしまった後の罪悪感と虚無感は否定できないけれども、しょうがなーー
「聞いた?明日の飲み会、神崎課長来るって!」
……えっ?
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