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3-2:午後4時のカウンセリング (5)

「ひとつ、まだ時期が早い」 「一ヶ月……って早いですか?」 「人によるとは思うけど、あたしは早いと思う」 確かに……俺にとっては四年越しの関係だからまったく意識していなかったけれど、神崎さんが時期尚早と感じている可能性はある。 でも、最初に神崎さんの方からそういうことをしてきてたってことを考えると……うーん。 これは違う気がするなあ。 「ひとつ、相手にそういう経験がない」 実はこれは俺もちょっとだけ考えた。 あんなことやこんなことを俺にしてきたのは実はムラムラに任せて勢いでついってだけで、本当はまさかのチェリーボーイなんじゃないか、なんて。 でも、あの手とか舌の動きの洗練された感じは、なあ。 やっぱりこれもなし、かも。 「ひとつ、そもそもそれ以上の関係を求めてない」 「えっ……?」 「遊びのつもり、とまではいかないかもしれないけれど、そういう関係になるまで深入りしたくない、って思ってるのかもね」 ガツン、と頭を殴られた気がした。 「佐藤くん?」 「あ、ああ、はい、そうですね」 「どっちにしても、本人に聞くのが一番早いと思うけど」 「それができれば苦労しないです」 「まあね」 宮下さんは爽やかに笑って、空になった容器を持って立ち上がった。 おにぎりのラップと一緒に資源ごみの箱に投げ入れてから、俺を振り返る。 「佐藤くん」 「はい?」 「頑張って」 「ありがとうございま……あ、いや、だからこれは、友達の話で」 「うん、そうだね」 宮下さんが、またクスリと笑う。 そしてペットボトルの水を一本手に取り、休憩室を出て行った。 ーーそういう関係になるまで深入りしたくない、って思ってるのかもね。 宮下さんの言葉が頭の中を行き来する。 憂さ晴らしじゃない。 アイスの代わりなんかじゃない。 神崎さんは確かにそう言った。 でも。 でも……本当に? ーー本人に聞くのが一番早いと思うけど。 「ほんと、それができたら苦労しない……」 俺のため息に応えてくれる声は、どこからも聞こえなかった。

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