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3-3:午後10時の攻防 (1)
寒い。
もっと厚い上着を着てくるべきだった。
闇の中に浮かび上がるこげ茶色のマンションを見上げながら、両腕で身体を抱きしめる。
俺が本当に運命の相手だったら、ここで思いがけずあの人に出くわすはずだ。
今夜は空が綺麗だから星でも眺めようと思って……そんなロマンチックすぎる理由で、あの人はベランダに出てくる。
そしてふとなにげなく、本当に何気なく下を見て、上を見上げる俺に気付くと着の身着のまま慌てて部屋を飛び出して、一気にここまで降りてくる。
息を切らしたあの人は俺の姿を捉えて驚きに目を見開いたあと、淡い笑みを浮かべてそっと俺の冷えた体を抱きしめてくれるーー
でも俺はやっぱりあの人の運命の相手にはならせてもらえないらしく、現実は現実のままだった。
吹き抜ける風が頬をヒリヒリさせる。
今日は朝から風が強かった。
日が沈むと急に気温が下がったのもあり、肌に触れる空気が冷たい。
まるで、俺の心に吹いているすきま風のように。
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