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3-3:午後10時の攻防 (8)

「佐藤くん、もしかして嫉妬……」 「してません!」 「……ふぅん?」 しまった。 また見抜かれた。 悔しい。 「……悪いかよ」 「悪くない。嬉しいよ」 神崎さんがさらに破顔する。 まただ。 欲しかったおもちゃを買ってもらった子供みたいに嬉しそうに笑って、俺を翻弄してくる。 まるで笑顔の安売りセールでもしているようだ。 やっぱり酔ってるんだろうか。 でもさっきはキスしても、酒のにおいも味も一切しなかった。 まさか素面(しらふ)ってことはないだろうけど……あ。 神崎さんは、黒のボクサーか。 似合うなあ。 あ、脱いだ。 どうせなら俺が脱がせたかった……じゃなくて。 なんでこの人は俺の前でこんな堂々と着替えてるんだ……? 尻まで出して……あ、ものすごくいい形してる。 今度は紺色のボクサーか。 細いと思ってたけど、こうして見ると案外筋肉ついてるなあ。 後ろ姿も、水泳選手並みの逆三角形……とまではいかないけれど、決して華奢じゃない。 着痩せするタイプか……って。 だからそうじゃなくて! いつもはコソコソ着替えるくせに、なんで今日はこんな大胆なストリップを見せてくれてるんだろう。 後ろ姿とは言え、けっこう……くる。 そりゃ男同士だから隠すものなんてないんだろうけれど、仮にも付き合っているんだから少しは警戒してくれてもいいんじゃないか。 これじゃいきなり後ろから抱きしめられても文句は言えなーー 「大丈夫だよ」 「えっ?」 「どんな美人が目の前に現れたとしても、お酒の勢いでそのままってのは、俺には絶対ない」 神崎さんが一度遠ざかったと思っていた話題を引き戻す。 クローゼットからハンガーを取り出して、今度はスーツのズボンをかけた。 「なんですか、その謎の自信」 「だってそもそも俺はお酒が飲めないから」 「えっ」 「いや、ほんとにさ。飲まないんじゃなくて飲めないんだ」 「下戸ってことですか?」 「うん、まあ、そうなるかも」 神崎さんが色の薄いジーンズに足を通しながら、曖昧に頷く。

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