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3-3:午後10時の攻防 (9)
「大学の時、イベントでお酒飲むたびにぶっ倒れて救急車で運ばれてさ。さすがに5回目に病院で調べてもらったら、医師 に、そもそも一滴も酒を飲むな。君はアルコールを身体に入れたら死ぬぞ、って言われた」
「死ぬ!?」
「体質なんだ。ナントカっていう酵素が人より極端に少ないとかで」
もしかしてあの『噂』って……これ?
なんか前にやってヤバかった、とか言ってたけど。
ーーいや、あの人は酒飲んだら死ぬから。
まさか本当に物理的に死ぬって意味だとは思わなかった。
「5回も冒険した神崎さんが信じられないです……」
「若気の至りだ」
「至りすぎじゃ……あっ!」
「ん?」
「大丈夫だったんですか?いつもけっこう普通にみりんとか白ワインとか入れてましたけど」
「あー……料理とかは、熱入れたらアルコール抜けるから大丈夫。それにさすがにひと口やふた口くらいなら倒れない」
「じゃあどれくらいが限界なんですか?」
「うーん……これくらい?だな」
神崎さんの親指と人指し指が3cmくらいの高さを作る。
確かにひと口やふた口ではないかもしれないけれど、三口目は怖くて飲ませられない量だ。
家の中にアルコール類がまったくなくてなんとなく違和感は感じていたけれど、なにせほかの物もほとんどなかったから、あんまり深く考えたことがなかった。
どっちにしろ、今聞いておいてよかった。
知らずにアルコール飲ませてたりしたらと思うと……ゾッとする。
好きな人を殺した犯人になんて、なりたくない。
「そういう恐ろしいことは、最初から言っておいてください」
「ごめん、タイミングなかったから」
「そうですけど……あれ、じゃあ神崎さん今素面 ですか?」
「え?うん。カルピスとオレンジジュースとお茶しか飲んでない」
なんだそのかわいいチョイス。
でも……そうか。
あのスキップは酒に酔ってたからじゃなかったのか。
頬が緩んでたのも。
玄関先でいきなりキスしてきたのも。
本当に俺に会えたのを喜んでくれてたんだ。
「佐藤くんはお酒飲めるんだろ?」
「あ、はい。飲めます」
「なら、佐藤くんを酔わせて楽しむことはできるな」
完全に着替え終えた神崎さんが、ようやく俺に向き合う。
その顔には、怪しい笑みが浮かんでいた。
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