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3-3:午後10時の攻防 (10)

「佐藤くん、お酒強そうに見えるけど、実は弱いだろ」 「えっ!?なんでそれ……」 「いつもひとり素面で酔っ払いに囲まれてばっかりだからな。お酒に強いか弱いか、人を見ればなんとなく分かるようになった」 ハズレることもあるけど、と神崎さんがはにかむ。 「なんなら今から買いに行く?」 くつくつと笑いながら、神崎さんが俺に近づいてくる。 すると、プン、と嗅ぎ慣れないにおいが鼻をかすめた。 なんのにおいだろう。 甘いにおい。 神崎さんの好きなバニラアイスみたいな……あ、これ。 香水だ。 女物のーー香水。 心の中がザワリと波立つ。 なんで。 なんで、女のニオイなんてもらってきてるんだよ。 俺には触れさせてもくれないくせに。 「なんてな。コーヒー淹れ……」 「いいですね」 「えっ?」 「酔ったらいろんなこと考えずに神崎さんを押し倒してしまえそうだし」 「は?……ぅわっ!?」 咄嗟に、神崎さんの右腕を掴んだ。 俺の横をすり抜けた身体が、反動で後ろに下がる。 逃れようとよじる腕を握る手に力を込めると、神崎さんが身体を硬ばらせた。 「佐藤くん……?」 「ごめんなさい」 「え、なにが?」 「ほんとは俺、今日の飲み会のこと、神崎さんから聞く前に知ってたんです」 「……へ?」 「ネオ株の人たちが神崎さんが参加するって騒いてるの偶然聞いて……なんで神崎さんは俺に話してくれないんだろうって悩んでました」 「それは……行くって決めたの、昨日の朝だったから」 「すぐに言ってほしかったです。LIMEだってあるんだし」 「だ、だって、ただの食事会、だろ」 「分かってます。でも、俺との時間より優先するんだって思ったら悲しかった」 「そ、れは馬肉が……馬肉で……馬肉、だったから……」 馬肉馬肉と呪文のように続いていた声がだんだんしぼんでいき、神崎さんの長い指が、躊躇いがちに俺の頬のラインを撫でた。 「ごめん、謝る。だから……そんな泣きそうな顔、してくれるなよ」 「……してません」 「佐藤くんが行くなって言ってたら俺、行かなかったよ?」 ……なんだよ、それ。 そんな程度の食事会なら、最初から行くなよ。 おかげで俺の心は、乱れに乱れて、もう自分でもわけがわからなくなってるっていうのに。 「こんちくしょう……っ」

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