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3-3:午後10時の攻防 (13)
今までこんなにも誰かを好きになったことなんてなかった。
求めたことなんてなかった。
だから、知らなかった。
受け入れてもらえないことが、こんなにもーー辛い、だなんて。
俺を見上げる神崎さんの瞳が、ゆらゆら揺れる。
電気の光にさえも美しく吸収して、キラキラ輝いている。
今その澄んだ瞳に映る俺の瞳は、醜い欲をむき出しにしてギラギラしている。
無理強いしたいわけじゃない。
傷つけたいわけじゃない。
俺はただ、あなたが欲しいだけなのに。
そっと頬をに触れると、神崎さんがぎゅっと目を瞑った。
振り払われるかと思った手に、繊細な指が絡む。
一瞬躊躇うように離れてから、強く握られた。
「佐藤、くん」
「……はい」
「頼むから……待って」
神崎さんのもう一方の手が、俺のシャツを掴んだ。
「ちゃんと……ちゃんと、話すから」
小刻みに震える手と掠れた声の振動が耳に心地よく響いて、心が落ち着いていく。
「……わかりました。聞きます」
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