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閑話:午前0時のインビテーション (5)
「はい、お茶」
「ありがとうございます」
月明かりに照らされるリビングのソファで、ふたり並んでお茶をすする。
飲み込むと、淹れたてのお茶がゆっくりと食道を下っていった。
その通り道からじわじわと熱が広がって、冷えた身体が温まっていく。
疲れた。
肉体的にも、精神的にも、ものすごく疲れた。
気を抜いたら、すぐに落ちてしまいそうだ。
むしろこのまま眠ってしまいたい。
でも、まだ風呂に入ってないし。
馬肉食べたから、歯磨きはしっかりとしておきたいし。
そういえば、明日も仕事なんだよな……。
「はぁ……」
「はぁ……」
思わずため息を吐いたら、左からも同じ音が聞こえた。
「……プッ」
「……ククッ」
同時に噴き出し、触れるだけの口づけを交わす。
ゆっくりと遠ざかる唇を見送るのが恥ずかしくて、カップをテーブルに置いてテレビのリモンコンを取った。
何度かチャンネルを変えてから、ニュース番組で手を止める。
音量を半分くらいに落として、思いっきり伸びをした。
「あの、理人さん」
「ん?」
「さっきサラッと『昔付き合ってたやつ』って言ってましたけど、その人も、その、男性……だったんですか?」
視線をずらすと、佐藤くんが真剣な瞳で俺を見ていた。
「あー……うん、そう、男だった」
「あ、話しにくいことなら別に……」
「なんで?佐藤くんにならなんでも教えるよ」
「なんの殺し文句ですか、それ……」
「言っただろ。知りたいことがあったら聞けって」
ダラリと伸びていた上半身を戻して、ソファに座り直す。
「初めて男を本気で好きになったのは高校の時だけど、ちゃんと『そうだ』って自覚したのは大学の時だな。高校の時は環境のせいもあるんじゃないかと思ってたから」
「環境?」
「俺、高校は男子校だったんだ」
「男子高校生の理人さん、ですか」
佐藤くんが、カップを握り締めながら、斜め上を見上げた。
なにもない空間を、キラキラした瞳で見つめている。
まさか。
「……興奮するな、変態」
「しょうがないでしょう。理人さんの制服姿とか、想像したらそれだけで……」
「す・る・な!」
「えぇ~」
何が、えぇ~、だ!
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