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4-1:午前9時のシャワールーム (9)
理人さんが、シャンプーの流れた髪を左手で搔き上げる。
目を閉じて首をひねる仕草が妙に色っぽい。
顎を上げて降り注ぐシャワーを浴びる姿は、俺が画家なら慌てて筆をとってしまいそうなくらい絵になっている。
つやつやと輝く後ろ姿は相変わらず細いなあ、とは思うけれど、理人さんの動きに合わせて上下する肩甲骨はどこかたくましい。
俺はなにかに導かれるように右手を伸ばし、理人さんの背中のラインをツ……と指で辿った。
「ひゃうっ!?」
理人さんが大袈裟に身体を揺らして振り返った。
高い声が、エコーになって湿った空間を漂う。
「い、いきなり触るなよ!」
「あ、ごめんなさい。つい」
俺をジトーっと睨んだ後、理人さんは小さく身震いした。
「理人さんって運動しないわりにスタイルいいですよね。よく見るとそれなりに筋肉あるし」
「ジョギングだけが運動じゃないだろ」
「えっ、何かしてるんですか?」
「今はしてないけど……中学高校時代は弓道部だった」
「弓道、ですか」
「弓道なんて華やかに見えて、実際は練習時間の半分以上が身体作りだからな。その名残だよ」
そうか、弓道。
どうりで、姿勢が綺麗なわけだ。
ん?
弓道、ということは、もしかして……袴?
そうか、袴かあ。
袴姿の理人さんとか、想像しただけでーー
「ぶっ……!」
いきなり顔にシャワーをかけられて、思わずぎゅっと目を瞑る。
すぐに髪の毛が乱暴にかき混ぜられた。
シャンプーの泡が顔を伝って落ちていくのを感じる。
「またなにか想像してただろ……」
「理人さんの袴姿に決まってるでしょ」
「そんなもん想像するな」
憮然とした声と一緒に、シャワーが離れていった。
顔の水滴を手で拭い、軽く頭を振る。
しぶきが飛び散って、すぐ近くから、うわ、と小さな悲鳴が聞こえた。
「理人さん」
理人さんが洗顔料をチューブから押し出しながら、不思議そうに俺を見る。
「俺も、流しましょうか?」
「なにを?」
「背中」
理人さんが流してくれたのは頭だけど、と続けると、理人さんの顔がりんご色に染まった。
「はぁ!?い、いらない!もう出るから!」
「なんでそんなに急ぐんですか。今日は土曜日だから休みでしょ?」
「身体なんてサッと流せば……んっ」
逃げようとよじった理人さんの身体を背中から抱きしめて、胸の突起を弄ぶ。
ビクリと強張った首筋に舌を這わせると、腕の中の身体が小さく跳ねた。
「ちょっ、やめっ……んんっ」
親指と人差し指で乳首を摘むと、抗議の声が飲み込まれる。
「こういうこと、期待してました?」
「す、するわけないだろ!」
「でも……ちょっと勃ってる」
「っ!」
もう一方の手を伸ばして確かに存在を主張し始めたそれをそっと握る。
理人さんは大きく息を呑んだ。
ゆっくりと手を上下させると、少し硬くなった。
「や、だ……っ」
震える声を絞り出し、腕の中で精一杯いやいやと首を振る。
そんな理人さんの姿に、心の中で暖かいものが広がっていくのを感じた。
「恥ずかしい?」
耳元で囁くと、理人さんの口がへの字に曲がった。
「だ、って……明るい」
やっぱり。
そんな思いが苦笑になって溢れた。
「洗うだけですから……ね?」
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