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4ー2:午前10時のブレックファスト (2)
「俺の誕生日……?」
理人さんがおもちゃの海賊船からトフィを飛び出させながら、目をまん丸にした。
ハンバーガーを頬張る俺の姿が、鏡のように映っている。
「はい。いつですか?」
「3月14日」
「えっ!ホワイトデーじゃないですか」
「覚えやすくていいだろ」
相変わらずおもちゃのボタンをカチャカチャ押しながら、理人さんが無邪気に笑った。
なんとなく熱くなる頬に気づかないフリをしながら、ポテトを一本摘む。
口に入れると、ざらざらとした塩の粒が舌の上を転がった。
「佐藤くんは?」
「え?」
「誕生日、いつ?」
「あ、えーっと、その……明日、です」
「は……?」
ひょこひょこと上下していたトフィの動きが、ピタリと止まった。
「え?え!?はぁっ?明日!?」
「は、はい。実は今日、宮下さ……バイトの先輩たちが一日早いけど明日休みだからってプレゼントくれて、それで自分の誕生日のこと思い出したんです。そしたら、理人さんの誕生日が気になって……」
「なんでそれ今言うんだよ!」
「えっ!?あ、ご、ごめんなさい!でもバイトの先輩って言っても本当に仕事でお世話になってるっていうだけで、それ以上のことは何もっ……」
「そこじゃない!」
理人さんが、ソファから勢いよく立ち上がる。
左手にトフィを海賊船ごと握りしめたまま、俺を見下ろした。
「なんでもっと早く言わないんだ、ってことだよ!」
「へっ!?」
「今日の明日じゃ、プレゼントとかお祝いとか、そういうのなにも用意できないだろ!」
「え、え?い、いいですよ、プレゼントなんて」
「でもっ……」
理人さんが声を荒げかけて、ハッと口をつぐむ。
そして、むうっと唇を尖らせると、乱暴に腰を下ろした。
ソファと一緒に、俺の身体が右側に傾く。
理人さんは触れ合った肩をチラリと見てから、またおもちゃのボタンを押した。
笑顔のトフィが、ひょっこり顔を出す。
「理人さん?」
小さなトフィをじっと見つめたまま、理人さんはなにも答えない。
唇がきれいな山を象っている。
「ごめんなさい。怒っちゃいましたか……?」
「……言いたかった」
「え……?」
「俺が言いたかった」
「えぇ、っと、なにをですか?」
「一番目の……おめでとう」
「……」
「なんで普通に仕事の先輩に言われてんだよ」
「……」
「そこは、俺……だろ」
あ、どうしよう。
鼻の奥が痛い。
かわいい。
かわいすぎる。
かわいすぎて、鼻から赤い液体が出てきそうだ。
「理人さん」
「……なに」
「12時になったら言ってください」
「12時……?」
「誕生日当日一番目のおめでとうは、理人さんから聞きたいです」
「……わかった、言う」
「はい。楽しみにしてます」
はにかんだように笑う理人さんに顔を近付けると、少し躊躇ってからゆっくりと瞳が閉じられた。
そっと触れるだけの口付けを交わして頬を撫でると、理人さんが震える目蓋を押し上げる。
「佐藤くん、さ」
「はい?」
「本当に、ほしいものないの……?」
潤んだ瞳でジッと見上げられて、心臓が高鳴った。
「実を言うと、ひとつ、あります」
「えっ、なに!?」
途端に、理人さんが前のめりになった。
「でもこれは言ったら、理人さん困るかも」
「困る?俺が?なんで?」
「理人さんの負担が大きいから」
「なんだそれ?一年に一回の大事な誕生日なんだし、わがまま言えよ」
「言っていいんですか?」
「え?う、うん。いい?けど」
「本当に?」
「な、なんだよ、しつこいな。いいから言えって」
「じゃあ、言います」
「う、ん」
理人さんが、神妙な顔で頷いた。
「俺、理人さんがほしいです」
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