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4ー2:午前10時のブレックファスト (3)

理人さんが固まった。 哀れなトフィが理人さんの手から転がり落ちる。 カシャンと乾いた音を立てるトフィにも気付かずに、理人さんは俺を見上げた体勢のまま銅像のようにカチンと固まっていた。 そしてたっぷりの間を置いたあと、金魚みたいに口をパクパクさせた。 「そ、れはっ……」 声が裏返っている。 誤魔化すように咳払いをして、理人さんは俺から視線を逸らした。 ボソボソと言葉を紡ぎ出す唇が震えている。 「それは、その……ちゃんと意味、わかって言ってる、のか」 「わからずに言えませんよ、こんなこと……」 「な、なんで佐藤くんが赤くなるんだよ」 「しょうがないでしょ。こんな恥ずかしいこと素面で言わされてるんですから」 「恥ずかしいって……」 「これでもめいっぱい勇気使って言ってるんです」 人間は、強欲な生き物だ。 見ているだけでよかったのに。 声が聞けるだけでよかったのに。 笑顔なんて向けられたら、それこそぶっ倒れてしまいそうなくらい嬉しかったのに。 あっという間に変わっていった。 一緒にいたい。 触れたい。 キスしたい。 気持ちよくしたい。 抱きたい。 俺の下で快感に喘ぐ身体を見下ろして、何度、そのまま抱いてしまいたいと思ったかわからない。 でも、擦り合うだけで精一杯の理人さんに無理強いはしたくなかった。 傷つけたくなかった。 大事にしたかった。 だから我慢していた。 俺には男同士の経験がない。 でも、受け入れる側の負担が大きいことはなんとなく想像がついた。 どうすれば理人さんを優しく抱けるのか知りたかった。 だからってまさか直接聞くことはできないし、できたとしても昔の恋人の話なんて絶対に聞きたくない。 だから、ネットで調べた。 さすがに映像を見る勇気はなくて、ただひたすらサイトを読んで勉強した。 そうやって学べば学ぶほど、やりたい気持ちは大きくなった。 そして俺は、『生殺し』という言葉の意味を初めて理解した。 理人さんが隣にいない夜は、俺の下で喘ぐ理人さんを想像してひとりで抜いた。 明日が誕生日なのは、単なるラッキーだ。 口実にできるから、口実にしているだけだ。 本当はもうずっと、理人さんを抱きたかった。 「俺、理人さんとセックスしたい」 「セッ……!?」 「抱かせてほしい」 「抱ッ……!?」 「だめですか?」 「っ!」 「……」 「……」 「……」 「……」 「理人さん?」 「……か」 「か?」 「考え、とく」

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